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移住・定住

葛藤の始まり

 ママからの承諾も取れて、都会脱出計画がにわかに現実味を帯びてきた途端、僕の心のなかで、さまざまな葛藤が生じ始めた。いや、不安な気持ちはそれまでも当然あったが、それを打ち消すかのように、夢を膨らませる事に夢中になっていた。それが、夢が希望になり、さらに希望が現実のものになってきて、改めて真剣に考え始めたのだろう。

  • 今までの積み重ねた実績と経験が、無駄にならないか?仕事に関しては、これまでよりも数倍の努力が必要だぞ。
  • 自宅を売り払っていいのか?貸家にしたほうが良くないか?家賃収入を家計にまわせば、その分楽になるぞ。イットキのまとまった金と長く入る金とどっちがいいんだ?
  • 収入が減るゾ。半分だぞ、半分!
  • 不便になるゾ。
  • 本当は華やかで賑やかなほうが好きなんだろ?静かで変化の少ない生活を長く続けていけるか?
  • 田舎暮らしで、自分の求めているような暮らしが、本当に出来るのか?

 頭をよぎるのはマイナス要因ばかり。そして迷い・・・。自問自答の連続。僕にとっても家族にとっても、大きなターニングポイントだし、不安や葛藤は、当然と言えば当然ではあるんだろうが。

 今の都会生活・・僕にとっては居心地がいいけど、子供達にとってはどうなんだろう?否応無しに競争社会に組み込まれ、個性を発揮できずに悶々としてるじゃないか。鬱積した感情が、時に大きな犠牲を伴ってあらぬ方向で爆発してしまう事件も目にする。若者ファッションは良いとしても、覚せい剤、無差別殺人、迷惑暴走行為などは、そんなことの現れじゃないだろうか?

 みんなもっと自分を表現したいのに、それを許してくれない競争社会がある。新鮮でみずみずしい子供達のパワーも、行き場を塞がれてしまっては、真っ直ぐに伸ばせずに、ひん曲がってしまって当然。こんな環境の中、我が家の子供達を望ましい方向へ伸ばしてあげることは出来るのだろうか・・自信は無い。

 今思い起こせば、このときは本当に真剣に考えていた。家族が一緒に過ごす時間が少ないのも大きな問題だけど、大人社会もやはり否応なしの競争社会。職種によっては、家には寝るためにだけに帰るという場合も少なくないようだ。

 「そんなこと関係無い、個性的に生きている子供達だって沢山いるよ。」と言う人もいるけど、どうもそう簡単に言い切れそうも無い。どこか不自然さを感じてしまう。僕やママでさえ、この社会で引きずられる思いで生きてたりする。ましてや多感で純真な子供達なら、事の善悪の判断がつかないまま、いろんな場所で多くの影響を受けてるんじゃないのか?それがその子の基本的な人格形成に影響を与えることは間違いない。慎重に“子育て”を考えないといけないと思う。

 いや、こんな環境の中でも、確かに素晴らしい生き方をしている子供達も大勢いる。そういう子供達は、幸いにもご両親の見識や努力によって支え育てられているんだと思う。全ての家庭でそれが可能ならば何の問題も無いけれど、お父さんお母さんの職場環境や地域環境などによって、不本意にも希望どおりに子供と接する事が出来ない場合がある。いや、そういう家族が多いんだろうと思う。我が家もその類に漏れない家庭なんだろうと思う。


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準備中