マタギのこころ

「マタギ / 田口洋美著」からマタギの言葉を伝える

タヌキに化かされた

 タヌキに化かされて 高堰竹治の話


俺は、マタギはちょっとやってやめたんだ。ウサギとかテンとか罠をかけて獲るのが主で、鉄砲はやらないんだ。罠では随分商売させてもらったけど、今ではもう娯楽みたいになってるなぁ。


まぁ、世間の皆は信用しないかもしれないけど、俺は山で何度もタヌキに化かされたもんだよ。いゃ、本当にタヌキってのは人を化かすもんなんだよ。タヌキってのは息を長く声を出す事が出来ないんだな。俺、仲間と二人でソコの山に入ったときに、タヌキに化かされたんだよ。仲間と別れて歩いていたら、“オイ”って仲間が呼ぶから、“オーィ”って答えたんだ。そしたらまた“オイ”って呼ぶんだよな。それで俺は仲間が呼んでるんだからって、藪をこいで仲間のいるほうに行ってみたんだけど誰も居ないんだよ。おかしいなって思って何度も仲間を呼んだんだけど、返事が無い。“あ、やられた”って気が付いたときは、もう日暮れだ。おまけに仲間とははぐれてしまって、とんでもねぇ目に会ってしまった。


タヌキってのはね、自動車の警笛の真似だってするんだよ。だから山の中を歩いていると、つい騙されてしまうんだ。タヌキってのは長く声を出せないから、“オイ”って具合で最初に聞こえたときに気が付けばいいんだけど、山の中で仕事してるんだ、いつもタヌキの事を考えてるわけじゃないんだから、騙されるわけさ。


人の言う事を信用しねぇで、『一度タヌキに化かされてみたい』なんて笑って言う人が居るけど、騙されるときは騙されるのさ。それで騙されて腹が立つのさ。本当だ。大体騙されるときってのはね、野郎は自分のすぐ後ろあたりにいるもんだ。俺はどっちかって言うと騙されやすい人間なんだべな・・・

タヌキの画像