マタギのこころ

「マタギ / 田口洋美著」からマタギの言葉を伝える

マタギと旅

 旅マタギなどの出稼ぎ 鈴木明治の話


私も若い頃はクマ狩りについて行ったことがありましたけど、やっぱりマタギの人たちのようには山歩きって出来ないものですね。ちょっと遊びでやって辞めてしまいましたよ。 昔、この辺のマタギの人たちは、随分遠方まで出稼ぎに出たようですよ。秋の収穫が終わると杣夫(そまふ:きこり)とかマタギで出稼ぎに出たそうです。そういう話は何度も聞いてますよ。出稼ぎでマタギをした人たちは、肉とか皮とかクマの胆を転売しながら銭を貯めて、こっちに送金したもんだそうです。福島とか長野、群馬の方へ行ってたらしいけど、旅に出たのは比立内打当、根子の人たちが主だったようです。


まぁ出稼ぎに出て、出た先々でいい人が出来て帰ってこなくなったり、3年も4年も黙ってて音沙汰も無くなったり、送金もしてこないでとうとう帰ってこなかった人も何人かいるようですよ。それに、昔はマタギ達は随分旅先で獲物を獲ったもんですから、ねたまれたり恨まれたり・・・猟場のことなどで喧嘩になったりして、トラブルに巻き込まれて命を落とした人もあったようです。そういう話も何度も聞いてます。 ですから旅というのは本当に命がけであったですよ。


昔はクマの胆を行商してあるいたもんです。今でもその関係で行商の得意先とか、出稼ぎで懇意にしてもらったりして、向こうの人たちと付き合いをしている人も結構あるようですよ。遠いのは名古屋とか北海道なんかですね。今でも商売をしている人たちはつながりを持っているようですものね。そのせいか、ここの谷に沿った部落というのは、とても人当たりが良くて、山村には珍しいって言われるんですけど、それだけここの部落の人というのは、商売気が強いって言う事かもしれませんね。


昔から世間を旅して稼いできたわけですから、とても視野が広い反面、金のことにうるさいって言う人もいますよ。今でもこの辺の人たちは出稼ぎに出る人が多いですよ。冬だとしんとしていますよ。最近でも出稼ぎにいって、帰ってこない人っていますよ・・・・


出稼ぎと村づくり

この辺の部落は、いくら山奥の部落と言っても、世間を歩いてきた人が多いですから、文化の程度は高いですね。世間を見て歩いていますから、新しいものはいち早く入ってきますね。ま、昔の人たちでもお金の使い方というのはいろいろで、私らの部落は自分の家を建てたりね、とにかく目先の事に使ってきたんですよ。ですから世間で稼いできた金を自分のためだけに使った部落と、根子みたいに子供の教育に金を使って、まず自分達は古い家で我慢してやってきた部落というのは、今になって大きな差がでてきましたね。やっぱりどんなに世間を歩いてきても結局は稼いだ金を何に使ったかで部落の将来というのは随分違ってくるようですよ。


まぁ、根子なんかはそうやって人を育ててるっていうか、人材を作るために金を使ったんですけど結局そうやって育てた人材は、みな都会に取られてしまって、帰ってきてくれる人はいないんですけどね・・・でも、あそこの部落からは人材が相当出てますよ。今になってみると、そういうことを感じますね。

山道の画像 二宮金次郎の画像 茅葺屋根の画像