マタギのこころ

「マタギ / 田口洋美著」からマタギの言葉を伝える

ケボカイ


集落によって多少の違いはあっても、クマの解体は、ほぼ同じ作法で行われる。おそらく「山立根本巻(やまたちこんぽんのまき)」という巻物が、マタギ共通の巻物であるためでしょう。「自然のものは全て山の神が支配するもの。山の恵みは全て山神様からの授かり物」として、山神様を敬い、儀式を行います。自然保護という概念の無かった時代、乱獲を慎み感謝を忘れないという、現在に通じる思想を伝承しつづけたマタギ達でした。


①前儀

捕獲したクマを頭が北を向くように、仰向けの状態で寝かせイタヤの小枝で、その胸と腹を上下にさする・・・・・


呪文・・「大物千匹 小物千匹 アト千匹 叩カセ給エヤ 南無阿毘羅吽欠蘇波河」 3回唱える。


②皮ダチ

こより(小刀)を下顎にあてて切り口を入れ、下顎から性器まで真っ直ぐに切り裂く。続いて両手首から胸へ裂き、足首から性器へと裂く。 毛皮の下の脂肪がなるべく皮に残らないように、皮を剥いでいく。 この脂肪はその場で食す。キラキラ光沢をはなつ脂肪(トダ)は、まろやかで甘い味がするそうです。


③ケボカイの儀式

剥いだ毛皮を頭と尻を逆にして、クマの上に被せ、イタヤの小枝で尻から頭へとさする。呪文・・「南無サイホウ ジュガクブシ」(7回)

「コウメヨウ シンジ」(3回)

「コレヨリ後ノ世ニ生レテ ヨイ音ヲ聞ケ」(1回)


ここまで済むと、いよいよ解体が始まります。

1.四肢を切り離す

2.腹を開いて内臓を取り出す

3.心臓や肝臓など、別々に仕分けておく。特に高価で売れる胆嚢は、万病に効果のある薬で、シカリがナイロンのヒモでキツクその口を縛り、後に乾燥させるのである。

4.役割を決め、ナガセ(背骨と背肉)、アバラ(アバラ肉)、エダニク(手足の肉)、ヨロウ(股の肉)、シコズキ(腰の肉)などに分けておく。

5.それぞれの重さを量り、そこから村の祭りで使う分と、これから皆で食べるモチグシと呼ばれる分を差し引いて、人数分で割る。どの部分も平等に渡るように、慎重に分配します。このとき同道した田口さんは、よそ者の自分にまで平等に分配されたのに、とても驚いたそうです。そのときの鈴木松治さんの言葉「マタギはっすな、一緒に山さ入ったものは皆平等なんだ。山神様はあんたを分け隔てはしねぇすがらな」

6.入札 毛皮、背骨、内臓、骨、舌、心臓、性器、肺を猟に参加した者たちで入札され、セリ落とされる。後日この入札で得られた金額に、クマの胆(い)を売った金額を合計して、参加者に平等に分配される。

このような一連のマタギの儀式を見ていると、集団で狩りを行うために、ある程度は個人の自由が束縛されるものの、いつも皆が等しく平等だという考え方が根底にあってこそ成り立つんだという事が良く分かります。シカリが絶対の権限をもち、集団をリードして狩りを成功させる・・・と言えば狩りに関わる統率形式にばかり目が行ってしまいがちですが、山神様の授かり物という思想から、守らねばならない掟や禁忌が伝承されているわけで、そのせいか参加者の言動は、変な言い方かもしれませんが、宗教家のようにも見え、悟りを求める修行者のようにも見え、荘厳な感じがしました。

ケボカイの画像