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森の狩人マタギ

吹雪に遭ったら

山で吹雪に遭ったらどうするか 松橋茂治さんの話

 マタギが、アウトドアマンたちから“師”と仰がれるわけ。その理由の一つが分かりました。 自然との調和と共存、真摯な態度で自然と向き合いつづけるマタギ。山で吹雪に遭ったらマタギたちはどうするのでしょう。アウトドアマン必見の技を、松橋さんの話でご紹介します。長文ですがアウトドアマンと自負する方は、是非読み切ってください。

 丁度今時分ですが、昔から吹雪になると命を取られたりしたというのは2月半ばから3月にかけてのこの時期です。だからこの時期というのはですね、山へ行っても天候がおかしくなってきたなと思ったら、スグに引き返してくるように言ってます。吹雪になると目の前が見えなくなるでしょ?体も冷えるでしょ?吹雪の中で歩くというともう家には返って来れなくなる。それどころか山の中で戻る事も出来ず、先に進む事も出来なくなって・・・・そうやって命を取られた人たちがいるんです。

  昔、打当鉱山というのがあって、そこの親方をやっていた村本っていう人・・・この人は前山のはずれの家を宿にしていたんですけど、その人、打当鉱山へ行ってくるって宿から出かけていったんです。だけど途中で吹雪いてきてね。鉱山にも宿舎はあったけどその近くまで来てて、結局戻る事にしたんですね。それが前山の宿に帰る途中、あともう少しで宿だっていうところまで来て、参ってしまった・・・そういうことがあったんですよ。

 昔は吹雪の中を歩いてて命を取られた人が何人もいたから、吹雪のなかを歩くもんじゃないって言ったもんですよ。寒が明けてからの吹雪というのは怖いもんです。自然を侮ってるとやられてしまう。吹雪のときは家出じっとして、出歩くもんじゃありません。

 毎年、今の時期になればですよ、テレビで冬山の遭難事故やりますけど、山っていうのはどんなに経験を積んだ人たちでも判断を誤ることがあるからね。 冬の山だと体力を使い果たしたら思考能力がなくなるから、もう人間じゃなくなるからね。人間は毛皮がないから、疲れたら裸の弱い動物ですよ。山の獣たちのように知恵も体力もないですよ。だから無理しないで、疲れてきたなっと思ったら、早めに対処しないと、どんなに優秀な人でもやられてしまいます。山で無理は禁物です。

山で吹雪になったらですね、動かないで歩かないほうがいいんですよ。どうせ冬の山に入っているときは、コダタキ(ユキカキベラ)とかスコップのようなものを持っていくでしょ? それで雪穴を掘って、一夜を明かすようにして、もし火が焚ければ火を焚いて、そこで天候の回復を待つわけですね。歩かない事が大切ですよ。吹雪の中で歩けば自分の位置がわからなくなるでしょ?それに体も冷えて疲れてきますからね。動けば体力も使って腹もすいてきて、結局参ってしまうんです。

 

 とにかくその場で何とかしなければならない。だから、あーこれは吹雪いてくるなって判断ができたら、まずいい場所、風の来ない火の焚ける場所を見つけて雪穴掘って火を焚くことです。あまり暗くならないうちにですよ、どこかで火を焚く覚悟をして、悩んでどうしようかって歩き回っていると、命を取られるから、できるだけ早く判断することが大事ですよ。無理したり躊躇してるっていうとやられてしまいます。絶対に自分の体に負担をかけないようにして・・・これはその人の判断力の問題だけどね。できれば少し臆病なくらいが山はいいですね。傲慢な人はやられてしまうんだ。

 いい場所というのはですね、火を焚いても穴にならないようなところですね。火を焚くと周りの雪がドブっと穴になるでしょ?だから例えば雪の深いところは避けて、“風ウタ”(風の当たらないところ)ですね。大木の根なんかを利用して周りを少し掘って、中に入って火を焚くと風も当たらないし、いいんですよ。中では火を焚くから温度が上がってくるでしょ?火力で雪がある程度溶けるけど、溶けても地面が出てくれば、あとは広がらないです。大木の根というのはいい場所ですよ。雪崩もなくて雪が吹き溜まって深くもなくて、風もしのげるということでいいですよ。

 だから吹雪になるようであったらそういう場所を早く見つけて、明るいうちから木を集めて火を焚くんです。火もなかなかつきにくいということもあります。ここでは“ガビ”って言うけど、“ウタイカンバ”(ダケカンバのこと)っていう木があるでしょ?シラカバに似てるあの木の皮を剥いでおくんですよ。このガビっていうのは少し濡れていてもよく燃えるから山ではいいもんです。だから暗くならないうちにこの木の皮を採っておいて、火を焚く準備をしておくわけです。私ら白神山地の方へ行ったときは、今夜は山に泊まる。泊まる事になるかもしれないと思えば、ガビを見かけたときに採ってリュックに入れておきましたよ。

 場所を見つけたら、そこへ木でも枯れ木でも集めてくるわけです。もしガビのような木がない時は、山に入る前に、写真のフィルムを入れるプラスチックの小さな入れ物があるでしょ?それにオガクズなんかを入れて、石油を染み込ませておいて、それを山に持って行けばいいんですよ。これを持っていけばすぐに火が焚けます。火は一旦つけば多少湿ってても燃えていきますから。

 ですからそういうときは場所を決めて、そこへ一晩泊まるつもりで火を焚いて、吹雪の収まるのを待つことですよ。岩肌のあるようなところでもですね、火は一旦ついてしまえば柴でも枯れ木でも採ってきて焚き付ければいいわけです。生木の場合は少しづつ焚くと消えてしまいますから、沢山まとめて積んで焚くと消えません。

 とにかく山で天候が急変して山が見えなくなってきたら、明るいうちに判断して、場所を見つけて火を焚く。これが大切ですよ。歩かなければ腹もすかないし、迷わないですからね。それで今度村の人たちが心配して探すときにはですね、次の日の朝早く探しにでるんです。山の中で火を焚いている煙を見れば、あーあそこにいるってスグにわかるでしょ?だから火を焚くのは大切なんです。


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