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くまの棲むまち

高橋了介さん 地域おこし協力隊

 北秋田市の地域おこし協力隊隊員に着任されてから2年目になる、高橋了介さんからお話をうかがいました。新聞やテレビ、雑誌などでその活躍が紹介されていますし、最近では猟友会会員としてマタギ装束を身に纏い、猟銃を持ってのマタギPRも行っていますので、ご存知の方も多いと思います。今回は協力隊の活動内容から少し離れ、高橋さんご夫婦の”ひと”について伺ってみました。

 高橋さんは東京都生まれの43歳。結婚後に奥様宅の横浜青葉区に居を移し、勤務先のIT関連企業に通勤の日々を続けていました。その後ダーツバーと呼ばれるお店に転職、ダーツの腕を磨いた(?)そうです。奥様はというと杜氏(とうじ)になることが目標で、お酒に関するウンチクは他を寄せ付けないほどとのことです。

 このころの高橋さんは、奥様がお酒のうん蓄を積んでいるのは知っていたものの、杜氏を目指しているとまでは知らず、またご自身はマタギという言葉も知らなかったということです。 それなのにその後、北秋田市と結びついていくわけです・・。


《エピソード》

 高橋さんの知らないところで、奥様は密かに行動を開始していました。秋田県と新潟県の造り酒屋に片っ端から履歴書を送っては杜氏になる道を探っていました。つまり日本有数のコメどころ、酒どころにという事ですね。しかし、女人禁制の酒蔵も多く、すべて不採用。←高橋さんは知らなかった。

 一方、高橋さんご夫婦のご子息は喘息で、病状も一進一退。ドクターからは「天地療法」をしましょうと勧められていたそうです。

 そんな中、奥様は杜氏の夢は諦めることは無く、情報集めは続いています。ある日、北秋田市の地域おこし協力隊募集の業務内容の中に「ドブロクの製造販売」という項目を発見します。←高橋さんはまだ知らない。

 2017年11月、奥様は東京有楽町で催された「北秋田市地域おこし協力隊説明会」に出かけます。そこで虻川副市長と会い話を聞き、そこで波長がピッタリ合ってしまったそうです。←高橋さんはまったく知らない。

 協力隊の応募資料を持ち帰った虻川副市長は、担当部署と検討した結果、合格と判定され、12月に面接を行うと高橋さんの奥様に連絡。←高橋さんは全然知らない。


《北秋田市での暮らし》

 さて、奥様にしてみれば面接のために北秋田市に出かけなくてはいけない。ここで初めて奥様から高橋さんに事のいきさつと結論を打ち明けられました。ここまで用意周到に事が進んでしまっていてはもう引っ込みはつきません。高橋さんも北秋田市の地域おこし協力隊の業務内容を眺めはじめました。そこで今度は高橋さんがマタギという狩猟民族と文化を知ることになり、コレだ!となってしまった。こうして12月ご夫婦そろっての面接で北秋田に初めて足を踏み入れることになったという訳です。


 北秋田に移動したのは昨年の2月。まだまだ雪の深い季節のことで、まずは雪の量にびっくりしたそうです。そして静かさにも驚いたとのことですが、澄んだ空気や自然は、ご子息の喘息の天地療法にも最適な場所だということで、今の住環境に大変満足されているそうです。夕方6時頃には夕ご飯を食べ、8時過ぎには就寝ということが多い。朝は7時前に起床、朝食を食べて職場へ出かける。横浜での生活スタイルとはまったく違ったサイクルで日々過ごしていらっしゃるそうです。職場は北秋田市役所。商工観光課で非常勤職員として勤務しています。

 地域おこし協力隊の任期は3年。任期満了後はどんな予定を立てていますか?とお聞きすると、「起業します」とキッパリ言い切ってくれました。もうそのための準備は進んでいるとのことです。しかも協力隊での経験も活かした起業を目指しているという事でした。

 北秋田市に来てから、マタギの鈴木英雄さんに会い、マタギの情報に触れ、猟友会の会員になりマタギの仲間入りを果たしました。そして根子集落に住む佐藤二朗さんと出会い根子番楽を知り、マタギの話も聞くことができました。さらに佐藤二朗さんから任期満了後に住居とすべき戸建て住宅を、阿仁地域に紹介していただいた言います。高橋さんは、二朗先生との出会いを振り返り、あれは運命的だったと仰います。奥様が杜氏を目指すことを諦めなかったことが引き寄せた「運命的出会い」とも言えるでしょうか。その奥様は目標とする杜氏をドブロクの作り酒屋と定め研鑽を続けています。 ご夫婦二人の力を合わせて「ドブロクが飲めるダーツバー」を開業したいと思っています。と起業の姿を語ってくれました。きっとそこではマタギ姿の高橋さんがパフォーマンスを披露していることでしょう。

 最後に高橋さんは「内陸線のお客さまにインバウンドが増えました。地元商店主や住民たちは気軽に「こんにちは」と声を掛けますし、外国の方も「コンニチハ」と笑顔で返事を返す。都会では考えられない風景で驚いています。殿様商売の方が多いと聞きましたが、そうでもないですね。これからも地元住民がもっともっと外に目を向けて、楽しい街づくりを続けていけたら良いですね。」と仰っていました。

 私たちは、とかく人口減少や少子化、内陸線存廃など話題が暗くなりがちでした。高橋さんのお話を聞いていて反省しました。重い気持ちにならず一歩前にすすめば、また視界が広がりそうな気がします。そんな気持ちが無かった訳ではないのですが、今日、高橋さんのお話を伺って改めて新鮮な勇気をいただきました。いつも明るい笑顔がカッコいいリトル・マタギ!! ありがとうございました。2019.04.22