アウトドアは自然との一体感を感じる醍醐味が魅力。常に自然の中で暮らすマタギたちは、そんな楽しみを諫めるときがある。
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 深く通る、北秋田市阿仁の松橋吉太郎(79)の顔のしわが、マタギとしての年輪を刻んでいるようでもあった。「66、67歳になってからだびょん。山さ入るとき、熊に呼ばれるような気がするのしゃ。そういう時は、必ず捕れるんだ」 いとおしそうに熊のことを語り始めた。ほころぶ表情が、しわを、さらに深く刻ませた。小柄だが引き締まった体、節がふくれた太い指。マタギ衆から「親方には熊の血が流れている」と噂される、現役のシカリ(頭領)である。

 阿仁地方には、根子、打当、比立内と三つのマタギの村がある。松橋は比立内の出身。炭焼きの家に生まれ、12歳の頃から父・松太郎について山に入った。山が迫る阿仁には、耕せる田畑は少ない。戦後の食糧難の時代、松橋は丸太を切り倒す仕事をしながら、見よう見まねで猟を覚えていった。「熊の血は飲んだし、脳みそも残さず食べた。内臓は薬だ。生きるためにマタギをやった。趣味でやってるハンターとは覚悟が違う

 若い頃は、沢から尾根へ、急斜面でひたすら獲物を追いかける「セコ」をやりながら、山の地形や動物の習性を覚えた。「撃たねっこ、かじらねっこ」という約束事もその一つだ。
 岩穴にいる熊をおびき出す時、マタギは四つん這いで穴に入り、中にいる熊に頭がぶつかったら、うつ伏せに寝る。すると熊がマタギの背中の上を歩き、自然と穴の外に出るのだという。「昔っからしゃ。熊は穴の中で人は襲わねぇ。その代わり、人も穴の中で熊を殺さねぇって約束しるのしゃ」

 「矛盾するようだけど、熊を人一倍、愛してるのはマタギじゃねぇか」。湯沢市秋ノ宮の菅招悦(すがしょうえつ・68)は話す。湯ノ岱地域のマタギの末裔だ。 妻と2人で経営する料理店「きのこ屋」の食材を調達するため、ほぼ毎日山に入る。山菜、キノコ、川魚、ヤマドリ、ウサギ・・・、季節に合わせ、山の旬を授かる。もっとも難しい猟が「森の王者」熊との対決だ。


 自らの気配を消し、「俺が熊なら、どの沢を歩くか、どのえさ場を目指すか」を考える。先回りして迎え撃つため、熊の気持ちになって、何時間も歩き続ける。「熊によって眼光が全然違うの。観念したように目を潤ませる熊もいれば、『お前なんかに絶対とられねぇ』って、挑むような目の熊もいる。心臓を撃っても死なねぇような気がするんだ。次は勝負だぞって、約束して別れる
 苦しませず一発で仕留めるため、あえて近づき、10メートル以内で勝負する。撃つ直前、こう頭に浮かべる。「南無阿弥陀仏。悪いけど戴くよ」。解体をする時は、飲めないお神酒を口にし、手を合わせる。


※写真上:獲物を狙って猟銃を構える菅招悦(湯沢市秋ノ宮) 写真下:打当温泉に飾られている熊の剥製の前で話す松橋吉太郎(北秋田市阿仁)

宮沢賢治(1896~1933)の童話「なめとこ山の熊」。東北の狩人をモデルにしたと言われる物語。

 主人公は「熊撃ちの名人・小十郎」。熊の言葉がわかり、熊からも好かれている。田畑は無く、仕事もない。家族7人を養うため、やむをえず熊を捕っている。しかし、せっかくの毛皮や胆は町の商人に買いたたかれてばかり。あり冬の日、小十郎は熊を撃ちそこない殺される。それから3日目の晩、熊たちは山頂に集まり、小十郎のむくろに祈りを捧げる───。

 生きるためにお互いの命を削らなければならない、太古からの宿命。その狩人と熊との関係は今、急速に失われつつある。安価な肉や化学製品が流通し、獣肉や毛皮は売れない。生活のため、猟をする必要性は無くなった。スノーモービルで猟場に向かい数キロ先からライフルと双眼鏡で狙い撃つ。命がけだった熊との決闘のイメージからは程遠い。

 熊の棲む環境も変わった。ブナやナラの広葉樹が伐採され、人口の杉林に変わった。過疎や林業の衰えで、里山は荒れ、登山客はごみを山に捨てる。エサと境目を失った熊が人里に降りてきて農作物を荒らし、人を襲うようになった。「熊を駆除してほしい」と自治体から頼まれる菅は、ときおり悲しい気持ちになる。「俺に言わせれば、人間が一番悪いんだ。もともと獣が山に棲んでて、人間は後なんだから」
 傘寿を迎える松橋は、いまも若手を連れて山に入る。3年前、伐採した倒木で頭を打ち、生死の境をさまよった。いまも体調は優れないが、引退をする気はない。「若ぇもんに本当のマタギを教えるまでは止められねぇ。熊に呼ばれてる、そう思えて一人前だ」

熊の被害が多発するようになった今、少し立ち止まって”細りゆく熊との宿命”を考えてみようとする人たちも増えてきている。私の居住する「くまの棲むまち」は、マタギ集落が点在するエリア。現役のシカリがその文化を伝承しているせいもあってか、熊の被害に対してはあまり騒ぎ立てないし、むしろこちらが悪いという話になることが多い。

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