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 ヒラというのはですね、くまを獲る罠なんですけども、木で組んだものですね。オラも昔は何枚も山にかけたものです。ヒラはクマだけではなく、カモシカなんかも大分獲ったものです。一秋に2頭も3頭もカモシカを獲ったものですよ。ヒラというのはですね、クマを獲る“クマピラ”とカモシカを獲る“アオピラ”があったんです。アオピラの場合は、クマピラのように天井に荷物(重り)を沢山上げなくてもすぐに参ってしまうもんでしたね。カモシカはそういうところは、弱いモンですね。だからクマを獲るときよりも荷物を少なくしてやるモンでした。

 ヒラというのはくぼ地とか尾根とか、獲物の通りそうな場所にかけたもんです。クマが越えて歩くような尾根のダルミとか、岩が迫り出して被ってるような岩場の下ですね、それに水飲みに来るようなところ、クマがどうしても歩かないとならないような場所を見つけてかけたのです。

 ヒラをかける場所は大体決まっていたモンです。俺はヒラ場って言いますが、この根子(集落)だと備前の又のどこどこのクラにヒラ場がある。というような言い方をします。俺だと一秋に3枚か4枚くらい掛けたモンですね。ヒラを掛けるのは結構手間がかかるものです。二人で1日かけても1枚出来ればいいくらいなんですよ。その場所にもよるけど、ヒラをかける場所には材料になるような木がねぇんですよ。いちいち材料を運んで、それから組み上げるしかないでしょ?時間も手間もかかるんです。場所も良くて材料もすぐそばにあるようなところだと、2人1日で2枚出来るけど、そういう場所というのは、なかなか少ないもんでした。毎年やってるところだと、材料もそこにあるし、組みなおしたり、材料を新しいのに換えたりする程度だから、2枚も3枚もやれるでしょ?

 ヒラも秋ヒラと春ヒラがあったんです。春ヒラだとここの場合だと、5月くらいから6月いっぱいくらいです。それで春の陽気で、せっかく獲れた動物がどうかすれば腐敗してしまうから、外には日があたっても獲物に直接日があたらないように、青シバの葉っぱのついたものを使って作るものでしたね。ヒラも2、3日置きに見に行くってのも面倒で出来ないでしょ?だから獲物が腐らないように、日陰を作ってやるようにしたんです。
春ヒラだと、その場所によっても多少時期が違ってくるんです。山のタケノコが生えてくる頃は、クマもタケノコ食べに歩いてるんですよ。クマはアザミとかフキなんかもたべるから、そういう食べ物が沢山あるような場所にもかけたもんです。場所場所でそれぞれ生えてくる時期が違ってくるもんですから、多少時期を見ながらかけるんです。

 秋ヒラになると、10月から雪が降るまでですけど、オトシという罠は山の木の葉が落ちてしまうと山が明るくなるでしょ?すると入らなくなるもんなんです。それと山はドンドン冷えてきます。霙も降る、霰も降るようになるから仕掛けのツメが凍り付いて落ちなくなるんです。それで重しに乗せた木もガンガンと凍って、凍りすぎると落ちなくなるんです。だからそういうこともあるからヒラも結構面倒ではありましたね。秋ヒラも早いところだとお盆過ぎから秋の彼岸あたりになればかけたものです。その場所場所でこれも少しずつ時期は違いますが、秋は山の木の実もなってドングリだとかブナの実だとか、木の実いっぱいなるから、そういう木の実の多い場所にもかけましたね。部落の近くにはクリ林なんかもあるから、そういうところへもかけました。

 ヒラの材料はですね、尾根なんかにかける場合、木がいっぱいあるようなところだと木を使いますね。岩場地帯になってくると木はなかなか手に入りません。そういう場所だと石はゴロゴロありますから、石を使ったもんです。別に木でなければならないって言う事もないですね。その場所の条件ですね。その場所で用意できるものを使って作るのがヒラですから、さっきも言ったように、ガンガンに冷えて凍るようなときは、石のほうがいいんですね。

 ヒラオトシっていうのは、どちらかって言えば時間をかけて作るものではないんです。できるだけ早くいいものを作るっていう、いわば即席で作るものなんです。だからこれでなきゃいけないってことはなかったですね。

 荷物は300貫乗せるって言ったけども、これはクマだとそれくらい乗せるわけだけど、クマは力が凄くてグァンと跳ね飛ばしてしまうから・・・。でもカモシカだと足も長くて細いし、華奢な動物だからそんなに荷物を乗せなくても潰されればすぐに参るからな。

 でもやっぱりクマはそうはいかない。足も手も強いもんだから、それにオトシにかかると暴れるでしょう?ヘタな作り方をすれば逃げられてしまうんです。だからヒラは素人の人だと、どんなに丁寧に作ってもダメですね。俺達が作れば1回オトシが落ちれば、ガンと抑えてしまうように作りますからね。やっぱり素人とマタギでは違いますね。俺も先輩とか父親に教わって覚えたんです。俺達は一つの職業としてヒラもかけてきたんです。逃げられるような物は作らなかったんです。商売にならないですからね。

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